過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

いまや証拠を隠滅し、物資を隠匿し、横領する。同胞から容赦なく金を巻き上げる

敗戦と人間のありよう。 ほんの数カ月前には、一億玉砕、お国のために喜んで死ぬ、桜の花のように清く美しく散るといっていた。

それがいまや証拠を隠滅し、物資を隠匿し、横領する。同胞から容赦なく金を巻き上げる。特攻隊は闇市の担ぎ屋となり、大和撫子はパンパンになる。
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ポツダム宣言受諾。「無条件降伏」が決まる。その瞬間から、軍司令部や官僚たちは、いそがしい。連合軍に見つかると責任を追求されそうな書類は、すべて焼却し。灰にして有耶無耶にした。

占領軍が来るまでに急げ。軍の倉庫から勝手に物資を持ち出し、軍事予算や日本銀行から急いで代金を支払わせろ。軍需業者や旧書類を破棄しろ。

軍事予算は、まだ七カ月分が残っていた。占領軍が到着する前に、軍の契約業者にはいち早く支払ってしまう。日本銀行は「平和的」な生産に転換させるという表向きの目的の下に、軍需関係の業者に対して膨大な融資を行う。

すべての軍需物資の処分は、地方部隊の司令官の手に委ねた(「陸機三百六十三号」秘密命令)。これらの記録は、みんな有耶無耶になる。
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帝国陸海軍が保有していた全資産のおよそ70%が、この戦後最初の略奪の狂乱のなかで処分された。

もともとこれらは、本土決戦のための資産であった。

大蔵大臣・石橋湛山は、「1000億円の価値があるものがどこに行ったのか知る者は一人もいない」と述べている。
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これらの資財がどこに行ったのか。無数にあった隠し場所に置かれた。または直接闇市に流れた。

石炭、コークス、ガソリン、木材、セメント、板ガラス、畳、銑鉄、圧延鋼、トタン板、銅板、アルミニウム、スズ、電線、モーター、肥料、化学薬品(酸・苛性ソーダソーダ灰)、機械油、ゴムタイヤ、農具、アルコール、ペンキ、染料、織物、紙などの工業用製品などの軍需物資は、軍人・実業家・官僚・政治家が隠匿して横流しした。

地位と特権にめぐまれた者たちは、勝手に横取りした。愛国婦人たちが戦争に協力しようと寄付した、膨大な量のダイヤモンドや個人所有の宝石類も盗まれた。海外から持ち帰った薬物や、チタンのような稀少金属も盗まれた。
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一九四六年四月、東京湾の岸近くの海中に銀塊が隠匿されているのが発見された。

また、ある化学工場が摘発されたが、この工場だけで「ナフタリン一〇トン、苛性ソーダ二六トン、潤滑油四五トン、食用油一五〇トン、工業用塩一六トン、鋼管五〇トン、鋼棒五〇トン、鉄板三〇トン、電動機四五台、およびその他の鉄類、繊維製品、ゴム製品」が発見された。これだけで三〇〇〇億円を越えた(一九四七年価格)。

この額の大きさは、この年度の政府支出の総額が二〇五〇億円と比較すれば明らかだ。事件の悪質さにもかかわらず、主要な犯人は誰ひとり起訴されず。

そして、中国の軍事物資など、児玉機関などは、政界工作に使い、いまの自民党との基礎である民主党(鳩山民主党)の結党資金として提供された。児玉誉士夫は右翼の大物として、政界のフィクサーとして君臨することになる。
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坂口安吾は言う。「 人間は変わりはしない。ただ人間へ戻ってきたのだ。人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。…… 堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わねばならない」(堕落論

以上は「敗北を抱きしめて」(ジョン・ダワー著 岩波書店)を参考にした。