学生の彼女は、当時、17歳だったが、山奥の村に行かされた。住まいは、恐ろしい家だった。前の家主は自殺している。首つりしたロープが残っていた。そこを診療所とした。
もうひとつ棺桶のある家も貸してもらえた。棺桶は二つ置いてあり、一つは薬の倉庫とした。一つは、自分が休むベッドにした。
農村での活動は2年間だったが、若いときの体験が生涯の宝となっている。いまの中国のリーダーたちもみな下放運動を体験した人たちだという。
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下放運動とは、文化大革命のとき、毛沢東の指導によって行われた下放運動(上山下郷運動)のこと。農村支援の名目のもとに約1,600万の中学卒業生が農村や辺境に追放されたことをいう。
農村で肉体労働を行うことを通じて思想改造をすること、青年が民主化、修正主義に向かうのを防止する目的があった。(やがて、青年たちは後の天安門事件に発展していくのだが)
東京女子医大でMRI(磁気共鳴画像)を受けたことがある。中国の李先生(女医)が、段取りしてくれた。この方は、博士号を日本で取得している医師である。
彼女は、下放運動で辺境の農村に行かされている。そのときの体験を、いろいろお話を伺ったのであった。12年前のことだが。
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彼女と、孔子や老子、唐詩なとについて話をしたが、ほとんど通じなかった。中国において、そういった文化的な伝統がまったく途切れていることを知った。
一方で台湾の友人と親しく付き合ったことがある。彼女とは、諸子百家、唐詩の五言絶句、七言律詩などをベースに話が盛り上がった。
たとえば、王之渙の詩「白日 山に依って盡き 黄河 海に入って流る」とぼくが書けば、彼女は「千里の目を 窮めんと欲して更に上る 一層の樓」と達筆で書く。そうして遊んだことがあった。台湾は、中国の歴史と伝統を継承し、漢字もそのまま継承している。
一方、中国共産党のありようは、中国三年の歴史と伝統を断絶させて成立した。漢字も簡体字にしてしまった。なんともも、もったいない。
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しかし、中国人はとても優秀である。現在の中国のIT化やフィンテック、高度知識産業の発展はものすごい勢いだ。日本は遥かに後塵を配している。
たとえば、『タイムズ・ハーヤー・エデュケーション』「世界大学ランキング2018」によると、上位200校に入った大学は、中国(香港を除く)が7校。中国のトップは北京大学で、世界ランキングで7位、2番の清華大学が30位。
日本でトップ200に入ったのは、東京大学、京都大学の2大学のみ。東京大学が46位、京都大学は74位という。
日本は、やがて中国の後塵を拝しつづけることになるのか。アメリカの傘下にあって、中国に対抗しようとするのか。長い目で見れば、中国の経済圏に属するすることになるのだろううか。