駅長だけのたったひとりの幌舞駅。不思議なことに駅に、幼児、少女、そして高校生があらわれる。じつはそれらは、17年前に亡くなった娘の姿だった。父の前に、亡き娘がそれぞれの成長に応じた姿を現したのだった。彼がその死を迎える最後の夜のことだ。
わが娘だったのか。そのことに気づいた駅長がつぶやく。
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・・・おめえ、なして嘘ついたの」
凍えた窓に、さあと音立てて雪が散った。
「おっかながるといけないって、思ったから。ごめんなさい」
「おっかないわけないでないの。どこの世の中に、自分の娘をおっかながる親がいるもんかね」
「ごめんなさい。おとうさん」
乙松は天井を見上げ、たまらずに涙をこぼした。
「おめえ、ゆうべからずっと、育ってく姿をおとうに見せてくれたってかい。夕方にゃランドセルしょって、おとうの目の前で気を付けして見せてくれたってかい。ほんで夜中にゃ、もうちょっと大きくなって、またこんどは美寄高校の制服さ着て、17年間ずうっと育ってきたなりを、おとうにみせてくれただか」
少女の声は降り積む雪のように静かだった。
「したっておとうさん、なんもいいことなかったしょ。あたしも何ひとつ親孝行もできずに死んじゃったしょ。だから」
乙松はセルロイドのキューピーを胸に抱いた。
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読み返すたびにじわっと泣けてしかたがない。
もちの木診療所の帰りに立ち寄った、まほろば図書館。当番のMさんと、病気やら病院のことで、話が弾む。
じゃあ帰るねといったとき、浅田次郎の「鉄道員(ぽっぽや)」があったので、ちょっとめくって立ち読み。むかし何度か読んだ本だ。