過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

たいせつなのは、日本人の研究だよ。日本人はどこからやってきて、どういう民族なのか

学生時代に出った榎本出雲さんというおじいさんの話し。東京帝大の国文、読売新聞記者、ルンペンを経て、当時は、巣鴨の4畳半の安アパートに暮らしてた。日本民族の起源はオリエントにあるという研究を、楽しそうにやっていた。

ぼくの学生時代は、まだ学生運動がはやっていた。早稲田の試験を受けるときには、校門の前には機動隊がずらり。ちょうど浅間山荘事件があったときだった。前年には、文学部の一般学生が、核内で革マル派にリンチで殺されたりした。

キャンパスにはやたらと立て看板、いつもストライキがあったり、学生会館に火炎瓶が投げつけられたりしていた。

友人たちも、デモに行こうなどと誘いに来る。マルクスがどうの、レーニンがどうの、毛沢東がと、日常の会話によく出てきていた。

当時、マルクスがどうのと言うとカッコよかった。知的にみえた。ぼくも、初期マルクスだの資本論など、読もうとした。が、意味がわからない。資本論など、最初の数行でダメ。じゃあヘーゲルとか、フォイエルバッハはどうかというと、これも全然わからない。

榎本さんが、そんなぼくに言っていた。

───どんな時代にも、いつでも社会に不満を持つモノたちがいるんだ。そいつらが、たまたまマルクスの言葉を借りて不満をぶつけているだけなんだよ。やつらが、マルクスなど分かるわけがないんだ。

───たいせつなのは、日本人の研究だよ。日本人はどこからやってきて、どういう民族なのか。そこがたいせつ。そして、民族の起源を学ぶには、大和言葉をまなばなくちゃいけない。その言葉がどうやって成立していったのか、そこがわかるといろいろ見えてくるんだ。

そのように、ぼくに語っていた。訪ねるたびにペルシア語の辞書と万葉仮名とを比較して、語源説を楽しそうに語ってくれたのだった。