過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

こわしたら二度と、おなじものはできない。ああもったいない。

廃校などの活用についてかんがえてきた。古い建物はほとんど「耐震に問題あり」だ。もしも利用中に地震による事故が起きたときには、行政の責任となってしまう。

耐震工事をするとなると、莫大な費用がかかる。放置しておくと維持費もかかる。都市経営上では不良資産として残ってしまう。そうなると、取り壊してしまうのが手っ取り早いということになる。

この建物は「森岡の家」といった。なかなか貴重な文化財だと思う。ところが昨年浜松市は、これを取り壊してしまった。風格ある江戸期の土蔵、長屋門、豪邸。チョウやクロマツなど威風堂々とした高木がことごとく切り倒された。費用は1400万円かかった。

解体の理由は、「施設の老朽化が激しく耐震性も劣るため、倒壊の危険性も高く、施設の継続活用は極めて困難」ということだ。落ち葉などで迷惑していると自治会長や町内会長から、取り壊しの要望書が出されていた。議会の承認も経た。行政は「地元市民の意思を無視できない」ということで、取り壊しということになった。

だが「地元市民の意思」というけれども、市民グループが、周囲の家々を訪問してみると、森岡の家の周辺、400名のほとんどの家が取り壊しを望んでいないことがわかった。そこで、市民グループは、市に住民監査請求を出し、取り壊し工事の差し止めを提訴した。

ところが、市はさっさと取り壊してしまったのだった。裁判の第一回口頭弁論も行っていないうちに、である。取り壊した後はどうなったか。「更地」になった。駐車場になった。

浜松市は「創造都市」を目指すとして、次のようにうたっている。「地域固有の文化や資源を活かした創造的な活動が活発に行われ、その活動が新しい価値や文化、産業の創出につながり、市民の暮らしの質や豊かさを高めていく」と。

大河ドラマのための広報をしたり、ゆるキャラにお金をかけてのイメージアップ戦略、ハコモノには、何十億もかけて華々しいけれども、こうした地道な歴史的・文化的な建物の維持、継承となると、なかなかむつかしいものだ。けれども、こわすのは簡単。こわしたら二度と、おなじものはできない。ああもったいないことをした。