「いきなり核心から入る」ことが大事なんです。「昨日、亭主を殴った」というふうに、どうして殴ったかなんていうことは書かずに、いきなり核心に入っていく。「私はどうも亭主を殴る癖がある」と、ぽんとはじめる。(井上ひさしの文章教室)
テレビドラマでも、刑事コロンボなど、脈絡なく、いきなり殺人のシーンが出てくる。それから、コロンボがのんびりと歩いて、かみさんが……みたいなシーンとなる。また、ニュースでも、いきなり「いま自民党本部が爆破されました……」みたいなところから入って、スタジオのシーンとなる。
そんなふうに、臨場感ある文章が書けたらいいのだが。
第65回文部科学大臣賞作品で、中学2年の高田愛弓さんの作品を思い出した。いきなり書き出しが「父が逮捕された」だ。ちょっと紹介。
───父が、逮捕された。自宅には家宅捜索が入った。毎日「いってきます」と「ただいま」を繰り返す門扉は、マスコミ陣で埋め尽くされた。2015年5月26日、夕刻のことである。
6人の警官が玄関先で卵のパックに収まっているかのように待機する中、母は親戚に電話をして、駅前のビジネスホテルを押さえてもらうと、祖母に連絡を取り、そこから叔母が私を迎えに行くように手筈(てはず)を整えた。
テレビドラマでしか観(み)たことがないようなことが自分の家で起こっている。しかし、私はその現実を巨大なシャボン玉の中から眺めているような違和感でしか受け止められなかった。「渦中の人」は、台風の目の中にいて、時の流れが他と少し違うところにいるものなのだ。───