過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

山里には無名の達人がいる

山里には無名の達人がいる。そうした方に出会うと、とってもうれしい▲炭焼き窯を指導いただいている天野富二男さん(90歳)がその一人だ。毎朝、三輪のスクータに乗ってきてくださる▲腰には兼帯(けんたい)を装備。 山仕事の人が必ず腰につけているナタとノコギリだ。これでさっと竹を切り、杉の枝を切る。丸太でもスカンスカンとナタで削って道具を作ってしまう▲日頃の手入れがすごいのだ。ナタは髭が剃れるくらいに切れる。ノコギリも目立てがしてあって、光っている。ぼくの道具と雲泥の差だ。

なにしろ90歳だよ、90歳▲率先してスコップをもって土を掘る。チェーンソーで丸太を切る。重たいハンマーも何のその▲年をとると、男はガンコになったり自慢話をするものだが、まったくそれがない。でしゃばることはいっさいない。かといって、へんに謙虚というわけでもない。フツーの自然体で、やわらかい。

奥さんを7年前に亡くして一人暮らし。家を訪ねると、まことにきちんとしている。掃除が行き届いている。広大な敷地に雑草もない▲昨年までは、生葉で160キロもとれる茶畑を管理していた。若い時には、冬になると山仕事に出たという。大きな山を任されて、枝を切り、間伐をする。4メートルもの高さまで木に登って枝打ちをしたという。命綱もない▲軍隊の経験もある。戦争はつまらんよ、軍隊なんてつまらんよ、そう言っていた。