過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

このままなにも食べないでいれば、静かに息を引き取る

母はもうほとんど食べない。水も呑まない。寝てばかり。どこが痛いとか苦しいとかいうこともない。ひたすら寝ている。食べたくないのに無理に食べさせないほうがいいと思う▲一昔前なら、このままなにも食べないでいれば、静かに息を引き取るんじゃないかと思う。そして、それが幸せなことじゃないかとも思う。

でも、このまま食べなければ、確実にあの世に逝ってしまいそうだ。やはりなんかと元気になってもらいたい。すこしでも、食べてくれれば、また元気になって話ができたり、動けたりするとおもう▲食べなくても水を飲んでくれればいい。水も飲まないと、血液がサラサラにならないので、脳に血が通わなくなって。身体動作も頭の働きもよくないのだと思う。

それで施設では、きょうから点滴となった。しばらく点滴していったら、すこし元気になってきたようだ。▲僕の顔を見て、なにかしゃべるようになってきた。入歯を外しているのと、脳梗塞のために言語が不明瞭。半分以上は聞き取れない▲もういいから、家に帰って寝なさい。京子さんを大事にしなさいよ。イヌはどうした? 家に帰りたい。土地が売れたから。……ちょっと半分は、妄想も入っているかもしれない。

フェルデンクライス・メソッドという深い身体動作の指導をしている友人がいるので、電話でアドバイスしてもらう▲身体が麻痺しているところでも、触るときに静かにマッサージしてあげれば、感覚はまだあるよ、と。それでしばし、足などをゆっくりとさすっていた▲そういう行為そのものが、じつに瞑想的になってくる。母も穏やかな笑みを浮かべるようになった。おかげで、静かな満ち足りた時間を過ごすことができた。