過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

災害と地名について

広島の土砂災害。あの八木という集落の近くに住んでいたことがある。35年も前のことだ▲ぼくは会社の転勤で広島営業所に勤務して、安佐南区祇園町北下安というところのアパートに暮らしていた。休日になると、近くの小高い山を散策していた。山から降りていったところが、あの土砂災害の地だった。

あの地区は、「蛇落地悪谷(じゃらくじあしだに)」と呼ばれていたという。蛇が降りるような水害が多かったから、蛇落地といったという話もある。「八木蛇落地悪谷」が「八木上楽地芦屋」と変更され、現在の「八木」となったらしい。蛇落地が〈上楽地〉に、悪谷が〈芦屋〉に▲このようにかつては災害の地にちなんだ名前が冠されていても、それは忌まわしいとして、吉祥な名前に変えられた所も多いと思う。

ぼくが親しく教えをうけている方に、郷土史家の木下恒夫さんがおられる。元警察官で、徹底して歩いて取材をされる方だ。80歳になる。森林からお茶のことから、克明に調べて自著は23冊にもなる▲現在は、郷土の災害史の研究をしている。明治時代の新聞を国会図書館から取り寄せて、古文書から古代の地名の変遷を調べてまとめておられる。

ここ春野には、たとえば夕陽の美しい大時(おおとき)という地名があるが、これはもとは「大土岐」であったらしい。地面が大きく割れたことに由来しているのではないか、とか。砂川(いさがわ)という地名など、まさに土砂災害のあった場所かもしれない、と▲そのうちこうした木下さんの研究成果のお手伝いをさせていただこう、と思っている。いままでの著作をデジタル化してホームページで紐解けるようにするとか、コンパクトにまとめて図版入りに編集しなおすとか。