過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

隠れキリシタンの記念館を訪ねたことがある

それと知らずに、隠れキリシタンの記念館を訪ねたことがある▲大磯にあるエリザベス・サンダースホームを訪ねたときのことだ。ここは、三菱財閥創始者岩崎弥太郎の孫・澤田美喜が建てた孤児院だ▲戦後の混乱の中でアメリカ占領軍兵士との間に生まれた混血児の救済と養育のために建てた。その広大な敷地に、教会のような記念館があった。

入り口のところで、草むしりをしているおじいさんがおられた。「きょうはやってるんですか」と気楽に聞くと、いきなり叱られた。「なんだ、人にモノを訪ねるときには、礼儀をわきまえろ」と。うわっと驚いたけど、たしかにその通り。非礼を詫びる。おじいさんは、いろいろと聞いてくる▲「あんたたちの家には国旗はあるのか、掲揚しているのか」とか「日本という国をどう思っているんだ」とか。「この国の教育はケシカラン。祖国という言葉もないような国、国旗や国歌を大切にしない国は、とんでもない」とも。

これは困った人につかまったなあ。でも、どんな背景でそんなことを言うのかなあと、興味が湧いてきておはなしを拝聴することにした▲この方は、昭和14年に起きたノモンハン事件を体験している。これは事件というけど、日本とソ連、そしてモンゴルを巻き込んだ戦争だ。双方で5万人近い死傷者を出している▲また、航空兵のとき墜落、不時着して頭に大けがをしたこともあるという。

お話を聞いていくうちに、ぼくのことを気に入ってくれたようで、「見学していくか」と言ってくれた▲しばらくすると、そのおじいさんがあらわれた。きちんとした黒衣にネクタイ、白い手袋の正装。神父さんのスタイル。なんと、ここの館長だったのだ。そしてここは、隠れキリシタンの記念館であった。

館内には、数々のロザリオ。仏像の姿をしているが、背中にイエス像、あるいは胎内に十字架、台座に十字架のマーク▲観音様のすがたをしているが、実はイエスを抱いたマリアさまの像。反射させると、そこに十字架のイエスが写るという鏡も見せてくれた。最古の踏み絵の版木もあった▲カメラは持ってきてないのかと聞く、持ってきてないといえば、ポラロイドで撮影してくれた。別れ際には、強い握手をしてくれたのだった。