インド音楽は、はじめもないし終わりもないような、無限に循環する流れ。そこに身をまかせて至福の時間を味わう。ぼくは椅子じゃなくて、瞑想スタイルで聴いていた▲かれらの音楽は即興で、楽譜はない。同じ曲を繰り返すことは二度とない。ただ、ラーガという旋律の型とターラというリズムの型(膨大な型がある)の組み合わせで展開される。演奏者同士の心と心に通じ合う即興の妙味がすばらしい。
二日続けてインド音楽を聴きに行った。静岡文芸大のホール。楽器は、サロードとタブラ。サロードとは、シタールのようなびよよーんと共鳴する弦楽器。タブラは左右一対の太鼓▲演奏も秀逸ながら、田森雅一先生から、インド音学のきちんとした理論について、はじめて教わることができたのは貴重なことだった。
田森先生によれば、インドにおける「音楽」に相当する言葉は、サンギート(Sangeet)という。サンとは総合、ギートとは歌謡。声楽、器楽、舞踊の三つの総合体をいう。それらは神への奉納、儀礼とした発展していったという▲ぼくはインドのお寺でこういうコンサートをよく聞いた。演奏者が祭壇の場に現れて楽器を構えるさまは、神に捧げる儀式のようでもあった。まれに神に捧げる祈りの旋律に参加させてもらっている、そんな厳かな雰囲気のコンサートに出会うことがある。それが、インドの旅をするおおいなる幸せの一つだ。