「拙速を尊ぶ」ということをお前は知らんのか。──かつてサラリーマン時代、上司によく言われたものだ。仕事が遅い、打つ手が遅いと叱られた▲なぜ遅いかというと、しっかりと準備して納得のいくかたちできちんとやりたいんだもの、という思いがあったからだ。
でも、そんなことしていると、たいせつな「時」を失ってしまう。タイミングを逃したら、完璧に準備していても、意味がなくなる▲たいせつなのは即座に手を打つことだよ、すこしくらいいい加減でもいい、なにより時を失わないことだと上司は言いたかったのだと思う▲この言葉は「兵は拙速を尊ぶ」という孫子の言葉からきている。作戦を練るのに時間をかけるよりも、少々まずい作戦でも、すばやく行動して勝利を得ることが大切というような意味だ。
たいせつな仕事ほど、ちゃんとやろうとして、後回しになる。即座に返事をしておけば、そこでつながったものを、後回しにしているうちに、信頼を失ってしまうなんてことはよくあった▲著者から送られた本でも、ちゃんと読んで感想を書いてお礼を、なんて思っていると、ついに出さずに失礼をしていることが多い。
本が届いたら「ありがとう。これから読みます」と一言でもいい。メールで難しい用件が届いたら「メール頂きました。これからきちんと読みます」と一言でもいい▲相手は、届いたのかどうか不安な思いでいるのだから、まずは「受け取りました」だけでもいい。ま、そんなことはすこしずつ体得するようになったけど、後回しにしていることが山ほどあるなぁ。