過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

パラナシ──遺族はじっと動かない(2)

ここバラナシでは死が隠蔽されず、顕わになっている。あっけらかんとしたものだ。

火葬場では、つねに白い煙がもくもくと立ち昇っている。遺体を焼く臭いがあたりに立ち込める。また次々と遺体が運び込まれる。

遠くから「ラーム・ナーム・サッチャ・ヘイ」(神の名は真理なり)というマントラが聞こえてくる。鐘と太鼓が鳴らされる。道には花が撒かれる。男たちが竹の担架に遺体を載せ、て運んでくる。

遺体は、白やオレンジ色の布にくるまれ、マリーゴールドなどの花で飾られている。火葬場に着くと、いちどガンガーの水に浸けて浄められ、井桁に組んだ薪の上に置かれる。

遺体に火を点けるのは、喪主である長男の務めだ。数本の髪だけを残して頭を剃りあげている。ひとり遺体のある結界の中に入る。

火種を持って遺体を右回りに三度まわる。そして点火する。あるときは、老人に抱きかかえられて遺体をまわり点火する幼子がいた。四歳くらいだろうか。その子が喪主なのだろう。そして、遺体は若き父か……。

点火される。ぼおっと焔が立つ。遺体を焼く専門の男が結界に入る。長い竹の棒で遺体を突いたりひっくり返しながら、まんべんなく焼いていく。

灰になるまで、およそ3時間ほどかかる。その間、遺族は結界の外でじっと動かない。生前の肉体が焼き崩れ、裂けて焦げ、炭となり灰となり、煙となっていく様を見守り続けているのだ。